近年、営業・マーケティング・カスタマーサクセスといった「売上に直結する業務」が、AIや自動化ツールによって急速に効率化されつつある。その流れの中で、今注目されている新しい職種が「GTMエンジニア」だ。
GTMエンジニアは、単なるエンジニアでもなく、単なる営業職でもない。営業活動そのものを「システムとして設計し、自動化する」役割を担う存在であり、売上を生み出す仕組みづくりを担当する。
GTMエンジニアとは何者か
GTMとは「Go-To-Market」の略で、製品やサービスを市場に届け、顧客を獲得し、収益化するまでの一連の流れを意味する。マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、企業の収益を支える活動全体を指す言葉である。
GTMエンジニアは、このGTMプロセス全体を対象にして、
- 営業フローの設計
- 顧客データの整備と統合
- AIを活用した自動化
- 分析・改善サイクルの構築
といった業務を行う。
従来、営業活動は「人の経験や勘」に依存する部分が多かった。しかし、GTMエンジニアは、そこにテクノロジーを持ち込み、営業活動を「再現性のある仕組み」へと変えていく。
なぜ今、GTMエンジニアが注目されているのか
背景には、いくつかの構造的変化がある。
営業手法の限界
大規模なメール配信や、手当たり次第のテレアポといった手法は、年々効果を失っている。顧客は情報に疲れ、無差別な営業アプローチに強い拒否反応を示すようになった。
企業は「数で勝負する営業」から「的確な相手に、最適なタイミングで、適切なメッセージを届ける営業」へと転換を迫られている。
AI・自動化技術の急進化
従来は多大な工数がかかっていた業務も、AIによって一気に自動化できる時代になった。
- 見込み顧客のリサーチ
- 企業情報や担当者情報の収集
- メール文面の作成
- 顧客の行動分析
- 優先順位付け
これらが、半自動あるいは全自動で実行できるようになったことで、営業の生産性は数倍に跳ね上がっている。
ツールが増えすぎた問題
CRM、MA、チャットツール、広告管理ツール、データ分析基盤など、企業が使うテクノロジーは年々増え続けている。しかし、ツールが増えれば増えるほど、運用が複雑になり、管理コストが肥大化していく。
この時代に必要なのは、
「ツールを導入する人」ではなく
「ツールをつないで、仕組みにする人」である。
それがGTMエンジニアだ。
GTMエンジニアは何をしているのか
GTMエンジニアの実務は幅広いが、主な業務内容は次のようなものだ。
- リード収集からアプローチまでの自動化
- CRMのデータ構造設計と最適化
- 顧客行動データの可視化
- AIによるメッセージ生成
- 顧客のスコアリングと優先順位管理
- 休眠顧客の掘り起こし
- 離脱兆候の検知とフォローアップの自動化
目的はひとつである。
「営業が属人化せず、仕組みとして回る状態を作ること」
この設計ができるかどうかで、企業の成長スピードは大きく変わる。
GTMエンジニアに求められるスキルセット
勘違いされがちだが、必ずしも高度なプログラミング能力が必要なわけではない。
重要なのは、
- APIやツール連携の理解
- データ処理の基礎知識
- 業務フロー設計能力
- AIツールの活用力
- 数値で物事を見る力
- PDCAを回す思考習慣
である。
つまり、
「技術 × ビジネス」
の中間に立てる人間が最も活躍できるポジションと言える。
そしてZapier、Clay、n8nといったAIツールの使用経験が重視される。
世界的に広がるGTMエンジニア需要
海外では、GTMエンジニアを専門職として採用する企業が急増している。従来の営業職やマーケティング職よりも高い報酬が提示されるケースも珍しくない。
これは、企業側がすでに理解しているからだ。
「人を増やすより、仕組みを変えた方が、はるかに効果が高い」
という事実に。
年収は中央値で年収2,400万円となる。
日本企業こそ導入すべき理由
日本では、
- 人手不足
- 営業の属人化
- ノウハウのブラックボックス化
- IT活用の遅れ
といった問題が多く存在する。
GTMエンジニアは、これらをまとめて解消できるポジションでもある。
特に、ITに強い人材、システムが分かる人材にとっては、自身のスキルを「売上創出」に直接結びつけられる、新しいキャリアの選択肢となるだろう。
AI時代の営業は「仕組み」が勝つ
営業はもはや、根性論や個人技の世界ではない。
- 誰がやっても
- 一定の品質で
- 再現性をもって
- 継続的に売上が立つ
状態を「仕組みとして構築できるか」が、企業の生存を左右する時代に入った。
GTMエンジニアの役割は、まさにその中核である。
終わりに
営業という仕事は、今、大きな転換点にある。
人が動く営業から、
仕組みが回る営業へ。
AIで営業を自動化する「GTMエンジニア」は、一部の先進企業だけの存在ではなく、これからのスタンダードになる可能性を秘めている。
売上を「人」に依存させる時代は終わりつつある。
これからは、
売上を「設計」する時代だ。


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